【8月12日時点】日銀9月利上げのOIS織り込み79% — 日米金利差が縮みにくい背景

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8月12日の日経に「日銀9月利上げ予想8割迫る 日米協調介入で「外堀埋まる」」(有料)という記事が出た。この「8割」はエコノミスト調査ではなく、翌日物金利スワップ(OIS)の市場価格から換算した値だ。

本稿は8月12日時点の市場スナップショットを扱う。 OIS、国債利回り、民間予想に関する数値は同記事および同時期の市場報道に基づく。一方、8月13日の米PPIと8月15日公表のCFTC建玉は、8月22日の公開時点ですでに結果が判明しているため、予測ではなく事後検証として反映した。

OISの「79%」は何を意味するか

8月12日午前、OIS市場が示す日銀の9月利上げの価格内包値は79%と報じられた。8月10日の66%から13ポイント上昇している。

OIS市場が織り込んだ日銀利上げ(報道値)
観測時点 9月会合で+0.25%pt 12月会合までに累計+0.50%pt
8月10日 66% 72%
8月12日午前 79% 76%

単純に「据え置きか25bp利上げか」の二つだけを仮定すると、79%は期待利上げ幅19.75bp(25bp×0.79)、会合後の期待政策金利は約1.1975%に相当する。ただし実際のOISから得られるのは、リスクプレミアムや日数調整を含み得るモデル依存の価格内包値であり、アンケートの予想確率や客観的な発生確率そのものではない。元のOISレートと換算方法が示されていないため、79%と76%は本稿だけでは独立に再計算できない点にも注意が必要だ。

CFTCのIMMポジションは火曜時点の建玉を週次で公表する遅行データであるのに対し、OISは日銀の政策金利期待を日々反映する。政策期待の追跡にはOISが適しているが、OISは為替介入の確率を直接測る指標ではない。 介入観測には、為替の変動速度、オプション市場、当局発言なども併せて見る必要がある。

協調介入は公式確認済み、利上げ「前提条件」は報道ベース

財務省は、米国東部時間7月31日に米財務省と協調して円買い介入を実施したと正式に公表している。一方、植田総裁の発言が米国参加の「決め手」になり、9月利上げが事実上の前提条件だったという説明は、共同通信の関係者報道によるものだ。日米両当局が公式な条件として確認したものではない。

日銀の7月31日会見録では、金融環境が過度に緩和的なら利上げペースを速める可能性が示されたが、9月という月を確約してはいない。したがって、「協調介入があったから9月利上げは決定済み」と読むのではなく、早期利上げの蓋然性を高めた一材料と位置づけるのが妥当だ。

民間予想も同じ方向に完全に揃っていたわけではない。日経記事は次回利上げの前倒しやターミナルレート1.75%への引き上げを紹介したが、同時期の公表情報には10月を中心シナリオに残す見方もあった。「改定ラッシュ」ではなく、9月を有力視する見方が増え、到達金利の想定にも上振れが出たと表現するほうが正確である。

金利市場の反応は明確だった。8月12日の新発2年債利回りは一時1.645%、新発5年債は一時2.120%まで上昇した。終値ベースでは日本相互証券の基準値が2年1.640%、5年2.095%である。日中高値と終値を混同しないようにしたい。

ドル円の反応が限定的だった理由と、金利差計算の注意点

8月12〜13日のドル円は、終値ベースでは159円台にとどまり、円金利の上昇に比べて反応が限定的だった。ただし「159円台で微動だにしていた」と現在形で一般化するのは正確ではない。日銀の外国為替市況では、8月21日17時時点のドル円は158.82〜84円である。

8月12日時点の政策金利は、日銀が1.0%、米連邦準備制度(Fed)のFF金利誘導目標が3.50〜3.75%で、単純な差は2.50〜2.75%ptだった。日銀の将来のターミナルレートを1.75%、米金利を現状のまま固定すれば差は1.75〜2.00%ptまで縮む。しかし、これは日本の将来金利と米国の現在金利を比べた静的な仮定であり、同じ先行期間の円・ドル金利を比較したものではない。

日米が25bp動いた場合の政策金利差(機械的な比較)
シナリオ 金利差への影響
日銀だけが25bp利上げ 25bp縮小
日米がともに25bp利上げ 不変
Fedだけが25bp利上げ 25bp拡大

したがって、日米が同幅で同時に利上げすれば金利差が広がる、という説明は誤りである。為替が動くのは現在の金利差だけでなく、将来の金利経路が事前にどこまで価格へ織り込まれていたか、今後のガイダンス、資金フロー、ポジション、介入警戒などが変化するためだ。79%がすでに価格へ入っている局面では、利上げそのものよりも、据え置きや今後の利上げペースのほうが大きなサプライズになり得る。

米国側の前提も8月12日以降に変化した。8月13日公表の7月米PPIは最終需要が前月比0.0%、前年比4.7%で、前月比は市場予想の+0.2%を下回った。これを受けて9月のFed利上げ観測は後退したため、8月12日時点の「日米同時利上げ」経路を公開時点の中心シナリオとして扱うことはできない。

9月17〜18日(日本時間)のイベント集中

FOMCは米国時間9月15〜16日で、声明公表は日本時間9月17日午前3時。日銀会合は9月17〜18日、総裁会見は18日15時30分の予定だ。日本時間ではFOMC結果と日銀会合初日が同じ17日であり、「中1日」ではない。

この日程から考えられるのは、確定的な介入ルールではなく、次の三つのシナリオである。

  1. 日銀が利上げする場合: 8月12日時点で相当程度織り込まれていたため、為替反応は利上げの有無だけでなく、次回以降のペースやターミナルレートに関する発信に左右される。
  2. 日銀が据え置く場合: 市場予想に対する下振れサプライズとなり、円安方向の反応が大きくなる可能性はある。ただし値幅はポジションやFed結果にも依存し、79%だけから決まらない。
  3. 為替介入: 財務省は再度の協調介入をためらわないと表明している。会合前であっても、過度な変動や無秩序な動きがあれば介入余地は残る。「9月18日まで介入しない」「据え置きなら米国の協力が消える」と断定できる公式根拠はない。

CFTCで「円ショート再構築」予測を検証

当初の仮説は、8月11日時点のCFTC建玉で投機筋のネット円ショートが8月4日の−45,473枚から拡大し、−85,000〜−65,000枚になるというものだった。8月15日に公表された実績は逆方向だった。

CME円先物・非商業部門(CFTC Legacy Futures Only)
報告日 ロング ショート ネット
8月4日 147,228 192,701 −45,473
8月11日 134,188 176,273 −42,085
前週差 −13,040 −16,428 +3,388

ロングとショートがともに減少し、ショートの減少幅がより大きかったため、ネットショートは3,388枚縮小した。予測レンジには届かず、本稿が置いた「CME非商業部門で円ショートが再構築された」という仮説は棄却される。

ただし、CFTCのこの区分だけから「OTC勢・実需が主導した」とまでは特定できない。確認できるのは、8月11日の締切時点までにCME円先物の非商業部門ではネットショート再構築が見られなかったという事実である。主体別の寄与や締切後の動きは別データで検証する必要がある。

結論

  • 79%は8月12日時点のOIS価格から換算したモデル依存の値で、予想調査ではない。
  • 日銀の早期利上げ観測は強まったが、協調介入との「前提条件」関係は報道ベースで、公式確認された条件ではない。
  • 日米が同じ25bpを利上げすれば政策金利差は不変。将来の日本金利と現在の米金利を直接比べるだけでは、ドル円の反応を説明しきれない。
  • 9月はFOMC結果と日銀会合が日本時間で連続するが、介入の有無や為替反応は確定的には導けない。
  • 8月11日時点のCFTCデータは、円ショート再構築の予測を支持しなかった。

出典

本記事は情報の整理と検証を目的としたものであり、投資助言ではありません。売買はご自身の判断でお願いします。