日経平均は本当に「史上最高値」か?円・ドル・購買力・金・米国株で36年を検証する
日経平均株価は2026年6月25日に終値7万2,366円の史上最高値を付け、8月7日終値でも65,606円71銭と高値圏にあります(高値からは約9%の調整)。しかし「ドル建てで見たら?インフレを考慮したら?実は大して上がっていないのでは?」という疑問も根強くあります。筆者自身、そう感じていた一人です。
この記事では、1989年12月29日のバブル期高値(38,915.87円)を主な起点に、6つの物差し — 円建て・ドル建て・実質円建て(日本CPI調整)・米国購買力(米国CPI調整ドル建て)・対S&P500・金建て — で日経平均の36.6年を測り直します。チャートはすべてインタラクティブで、カーソルを合わせる(スマホはタップ)と各年の値が表示されます。
結論 — 「史上最高値」は、何を物差しにするかで答えが変わる
先に結論です。特に「実質」は2つに分けて見る必要があります。国内の購買力(日本CPI調整)ではすでに1989年超え、米国の購買力(ドル建て+米国CPI調整)ではいまだ4割下です。
- 円建て(名目):史上最高値は6月25日の72,366円で1989年末比 +86%(年率+1.7%)。本記事の計算基準である8月7日終値65,606円でも +69%(年率+1.4%)です。2024年2月に34年ぶりの更新を果たして以来、名実ともに最高値圏にあります。
- ドル建て(名目):約$271 → 約$415で +53%(年率+1.2%)。円安を除いても1989年を上回っています。ただし初めて超えたのは31年後の2021年1月で、2022〜24年の急激な円安で再び割り込み、更新が定着したのは2025年以降です。
- 実質円建て(日本CPI調整):日本国内の購買力で +29%(年率+0.7%、6/25高値ベースなら+42%)。1989年ピーク相当の名目水準(2025年の物価で約50,100円)を2025年末に約+0.5%と辛うじて上回り、2026年に明確に更新しました。
- 米国購買力ベース(ドル建て+米国CPI調整):1989年末の約$271は、米国の物価上昇(×2.65)を反映すると2026年の購買力で約$719に相当。現在の約$415はその58%で、1989年比 −42%(年率−1.5%)。この物差しではいまだバブル期の水準を回復していません。
- 対S&P500:同期間にS&P500は約22倍。ドル建て日経平均の相対パフォーマンスは −93% です。
- 金建て:約0.68オンス → 約0.10オンスで −86%(当日値ベース)。法定通貨を物差しから外すと、実物資産に対する交換価値は依然大きく低下したままです。
つまり、「日本株は回復した」という主張と、「国際的・相対的な購買力ではまだ失われた数十年を取り戻していない」という主張は、同時に成立します。
「失われた○年」の終了年も定義次第で変わります。円建て名目なら2024年2月に、国内実質なら2025年末に終了。米国購買力基準ではまだ終わっていませんし、対S&P500基準では終わりが見えません。
① 国内から見た日経平均 — 円建て・ドル建て・実質円建て
同じ日経平均を3通りに指数化しました(1989年末=100)。100の線がバブル期ピークです。円建ては2024年2月、実質円建ては2025年末(+0.5%)、と回復時期が物差しごとにずれるのが分かります。ドル建ては2021年1月に一度超えたあと円安で再び割り込み、2025年に回復しました(年末値ベースのため2021年の一時超えはチャートには表れません)。
意外なことに、1989年比の議論では円安の寄与は小さいのです。ドル円は1989年末143円→現在158円と約10%の減価に留まります。円建てとドル建ての差が小さいのはこのためで、1989年比の「水増し」の主因は為替よりもインフレ差と成長率差です。
② 海外購買力から見た日経平均 — 米国CPI調整ドル建て
ここが本記事の核心です。ドル建て日経平均を、さらに米国CPI-Uでデフレートします。「日経平均をドルに換え、そのドル自体の購買力の変化まで消したらどうなるか?」に答える指標です。①の実質円建て(国内の購買力:129)とは対照的に、米国の購買力では55前後。同じ「実質」でも、物差しを日本の物価にするか米国の物価にするかで評価が逆転します。
年次ベースで見ると、この線が1990年以降に付けた最高は1995年の61です。ITバブル期(44)も、2021年(43)も、そして史上最高値を付けた2026年(8/7時点で55)も、バブル期の6割前後に留まります。世界最大の消費市場である米国の購買力を物差しにすると、日経平均はまだ1989年を大きく下回ったままです。
③ 同じ物差し(ドル)で見た日経平均 vs S&P500
どちらもドル建て・1989年末=100・対数軸です。1989年末に両方へ同額投資していた場合、米国株は約22倍、日経は1.5倍(いずれも配当除く)。対数軸なので、傾きが同じなら成長率が同じことを意味します。
④ 金建て日経平均 — 日経平均は金何オンスと交換できるか
通貨を物差しに使わない評価です。1989年の0.74オンス(年平均金価格ベース)から現在は0.10オンス。株価が史上最高値を更新する裏で、金に対する交換価値は1970年代前半の水準まで低下しています。
起点を変えると景色が変わる
ここまで1989年起点の話でしたが、起点を変えると評価は一変します。
| 起点 | 円建て | ドル建て | 実質円建て | 米国購買力 | 対S&P500 | 金建て |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1989/12/29(バブル高値)* | ×1.69 (+1.4%) | ×1.53 (+1.2%) | ×1.29 (+0.7%) | ×0.58(−42%) | ×0.07(−93%) | ×0.14(−86%) |
| 2000年末(ITバブル期) | ×4.76 (+6.0%) | ×3.24 (+4.5%) | ×4.08 (+5.4%) | ×1.67(+2.0%) | ×0.56(−44%) | ×0.21(−79%) |
| 2012年末(アベノミクス前夜) | ×6.31 (+13.4%) | ×3.19 (+8.3%) | ×5.25 (+12.0%) | ×2.19(+5.5%) | ×0.59(−41%) | ×1.22(+22%) |
| 2015年末 | ×3.45 (+11.3%) | ×2.64 (+8.7%) | ×2.98 (+9.9%) | ×1.87(+5.6%) | ×0.65(−35%) | ×0.70(−30%) |
倍率は2026年8月7日まで・配当除く。カッコ内は年率。* 1989年行のみ当日実勢値(¥143.40/$、S&P500=353.40、金$401、CPI-U 126.1)で計算。他の行の為替・金・CPIは年平均。
起点を2012年末(アベノミクス前夜)にすると、ドル建て×3.2、実質円建て×5.3、米国購買力ベースでも×2.2、金建てでも×1.2と全指標でプラスです。直近十数年の上昇は「円安の幻」だけではありません。ただし2012年比では円がほぼ半値(80円→158円)になっており、円建て上昇(×6.3)の約半分は円安によるものです。
データと計算方法
- 株価指数は配当を含まない価格指数です。配当込み(トータルリターン)では日経・S&P500ともに年率+1〜2%pt程度改善するため、1989年比の実質リターンは配当込みならはっきりプラスになります。相対比較の結論は大きく変わりません。
- 日経平均は年末終値(2026年のみ8/7終値65,606.71円)。史上最高値は2026年6月25日終値の72,366円で、本記事の「現在」はすべて8/7時点(高値比約−9%)のより保守的な評価です。ドル円・金価格・CPIは年平均を使用(2026年はドル円158.13円・金$4,350=8/7、日本CPIは6月全国総合113.6)。1989年比のヘッドラインは1989/12/29の実勢値(¥143.40/$、金$401、CPI-U 126.1)で計算しています。
- 実質円建ては日本CPI(総合・2020年基準)でデフレート。1989年→2026年6月の物価上昇は約+31%です。
- 米国購買力ベースはドル建て日経平均を米国CPI-U(1982-84=100)でデフレート。1989年12月126.1 → 2026年6月333.952で約2.65倍です。
- ドル建て日経平均の1989年ピーク$273.59と2021年1月の更新は日経の公式解説によります。本文の$271は12/29終値÷当日レートによる筆者計算です。
年次データ表を開く(1971–2026)
| 年 | 日経平均(円) | ドル円 | ドル建て($) | 実質円建て(1989年円) | 日本CPI(2020=100) | 米国購買力(1989=100) | S&P500 | 金($/oz) | 金建て(oz) |
|---|
出典:日経平均株価(日経平均プロフィル・Wikipedia年末値)、ドル円(FRED・OANDA)、日本CPI(総務省統計局・世界銀行)、米国CPI-U(BLS・ミネアポリス連銀)、S&P500(multpl.com)、金価格(LBMA/datahub)、日経インデックス「ドル建てならすでに史上最高値」。
本記事は市場データの記録・分析を目的としたものであり、投資助言ではありません。








